エッセイ
摩擦圧接との出会い
平成16年7月1日掲載
加藤 数良
日本大学生産工学
部機械工学科
教授
「摩擦」って何ですか。学生の頃は「摩擦がなければ人間は立っていられない。」程度の認識しかなく、力学の計算では摩擦を考慮するのはやっかいなものだったと記憶している。また、専門科目(機械工学)の講義の中では「摩擦は極力少なくし、機械効率を向上させるような工夫が必要である。」ことを学んだ程度で学部を卒業した。大学院では指導いただいた時末 光先生の研究室では、当時は溶湯鍛造と摩擦圧接に関する研究を進めており、修士論文は溶湯鍛造について行った。しかし、研究室のスタッフとしては時末先生と十数人の学生しかおらず、当然先生の直接指導で実験が進められていたので、小生は院生として学部学生とともに修士論文のテーマである溶湯鍛造の実験を進めると同時に、摩擦圧接に関する実験も一緒にやることが多かった。このあたりが本格的な摩擦圧接との出会いだった。
ご存じのように鋳造の実験は天候(湿度)の影響など再現性の悪い部分も多い。それに引き換え、摩擦圧接は一般に行われている溶融溶接に比較し溶融を伴わないために非常に再現性がよいことに魅力を感じたことも多いが、摩擦圧接に対しては材料を摩擦すると発熱し、焼付きが起こり接合する程度の理解であった。
助手として残った当初は、学生の手作り摩擦圧接機を使用しており、毎年バージョンアップされVar.3あたりで、これまでの多くの卒業生が夢見た実用機を実験用に改造した摩擦圧接機が研究室に登場した。鉄鋼材料を初めとし、アルミニウム合金、マグネシウム合金などを素材として同種、異種の摩擦圧接を進めた。特にマグネシウム合金は接合時に燃えるため接合できないとされていた。初めはその恐怖心もありアクリルで簡単なチャンバーを作りアルゴン雰囲気を作って始めたが、学生の燃えそうもありませんよとの進言で雰囲気なしで摩擦圧接をチャレンジした。結果、全く問題ないことが判明し、強度的にも何ら変化がないことを確かめ、現在ではマグネシウム合金が燃えることを意識しないでやっている。これも、日頃実験の状況をよく観察しろと教えられていた結果だと感謝している。
現在では研究室の摩擦圧接機はさらに進化し、位相制御が可能となり、角材の摩擦圧接にも取り組んでいる。また、この新型機を導入する際に表面改質装置として摩擦肉盛が可能な装置を組込み、新たな摩擦が増え、悩みも増えたが、摩擦肉盛後の肉盛材を圧延し、表と裏の材質が異なる圧延板を作り出したという喜びもあった。
昨今では、新しい摩擦応用接合技術としてTWIが発明した摩擦撹拌接合(Friction Stir Welding:FSW)が紹介されたときはいささかショックもあったが、これも、やってみようと試行錯誤の上接合できるようになり、新型のFSW機も導入され、研究室は摩擦のデパートのような状態である。そんな中で、これまでの接合のように、接合部そのものを摩擦する必要はないだろうと、間接的に摩擦熱を伝へ接合する摩擦スポット接合、摩擦シーム接合を考案し、研究室に新たな摩擦の仲間が増えた。これも熱伝導のよい軽金属を使用していたこと、新たな考えを実現した当時の学生達のお陰であり、現在は、学生も院生も摩擦を使って接合するのは当研究室にお任せ下さいと言わんばかりに頑張ってくれている。
機械工学の分野では嫌われ者の摩擦を有効利用する接合方法を手作りのマシーンから始め、社会で役に立つ技術でなければとの思いを持ち実験を進めた多くの卒業生は、実験では摩擦は大いに歓迎であるが、研究室内や社会での摩擦はお断り、また、発想の転換が必要であることを学んでくれたと思う。私自身、未だに摩擦の本質は理解できていないところも多いが、学生たちには大学で得た財産を社会で育て、磨いて活躍してほしいと願っている。