一般社団法人 軽金属学会

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エッセイ

産業遺産

平成29年9月1日掲載

穴見 敏也

日本軽金属株式会社
グループ技術センター
グループマネージャー

 

 今年7月“「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群”が,国内で19番目となる世界遺産への登録決定となりました。宗像・沖ノ島は私の出身地である福岡県にあり,地元は今回の登録を観光振興や地域活性化に役立てようとしています。また,先に世界遺産として登録された“明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼,造船,石炭産業”は,構成資産が全国各地に分散していますが,それらのいくつかは福岡県や現在私が居住している静岡県などにあり,多くの観光客が訪れる人気スポットにもなっています。金属に関係する仕事をしている身として“製鉄・製鋼“に関する産業遺産が世界遺産として登録されたことはうれしい限りですが,さて軽金属に関する国内の産業遺産はどうなっているのだろうと思い,国立科学博物館が運営する産業技術史資料情報センターのデータベースで軽金属に関するキーワード(アルミニウム,マグネシウム,チタン)を検索してみました。その結果,アルミニウムで76件,マグネシウムで13件,チタンで40件(8月16日現在)の資料がヒットしました。詳細はデータベースをご参照頂きたいと思いますが,それら資料の多くは企業などが所有しており,一般の方が自由に訪れて見るということは難しそうでした。そこで,誰もが自由に訪問でき,かつ軽金属に関する産業遺産はないものかということで,まずは私の身近なところを探してみました。

 羽衣伝説や三保の松原で有名な三保半島(静岡市)には,日本軽金属のアルミナ工場があります。アルミニウムの電解製錬が盛んだった時代は,三保半島にある工場で製造したアルミナを専用の貨車に積み,今は廃線となった清水港線から東海道線を経て,蒲原(静岡市)や新潟にある電解工場まで鉄道輸送していました。昔はその列車が“軽金ポッポ”と呼ばれていたと先輩から聞いた記憶があります。その後,オイルショックによる電解製錬の縮小にともないアルミナの輸送量も減少したことから,清水港線は昭和59年に廃止となりアルミナの鉄道輸送も幕を閉じました。しかし,清水港線の終着だった三保駅は公園として整備され,園内には廃線時まで使われていたアルミナ専用貨車が機関車とともに静態保存されています。ちなみに,貨車のシャーシーとタンクはいずれもアルミニウム合金製です。

 

 清水港線から東海道線を経て鉄道輸送されたアルミナは,現在の富士川駅で方向を変え,専用引き込み線を使って蒲原の電解工場へと運ばれていました。今は引き込み線のレールも撤去され,跡地も再開発されていますが,緩やかなカーブなど廃線跡にみられる特徴が残っています。また,引き込み線が東海道線と並走する箇所にあった踏切は,その名にアルミニウム(軽金属)と関係があったという痕跡を残しつつ,現在も東海道線の踏切として使われています。

 

 アルミニウムの電解製錬は大量の電力を必要とするため,蒲原の電解工場は自家用水力発電設備を併設していました。発電所は現在も現役で動いており,内部の見学はできませんが,発電所の建屋や水圧鉄管などは隣接する道路や東海道線から見ることができます。一般に,水力発電所は内陸部にあることが多いのですが,蒲原の発電所は駿河湾にほど近い場所にあり,有効落差77mを下って発電に用いられた水は海へ直接放流されています。  いずれも,観光スポットというわけではありませんが,誰もが自由に見ることができ,かつ軽金属に関する産業遺産ということで,私の身近な例を挙げてみました。みなさんの近所にも,軽金属にゆかりのある産業遺産があるかもしれません。

 
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