一般社団法人 軽金属学会

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エッセイ

技術の奥深さに触れて

平成28年1月1日掲載

栃木 雅晴

昭和電工株式会社
コーポレートフェロー
小山事業所長

 

 早いもので、もうすぐ私は60歳になります。ヘッポコですが、技術者として社会で約37年間過ごす事になりました。今考えると、長いようですがあっという間だったと感じます。技術の領域は広く、深くとても一言では言い表せません。自然科学の分野から工業化プロセス分野まで、多岐に渡っています。私は縁あって、現在はアルミの技術分野の仕事をしていますが、今回雑文ですが、私の感じてきた事を記します。

 私は学生時代、いろんなアルバイトをしました。殆どが力仕事でしたが、たくさんの経験を積む事ができました。そこでは、アルバイトで素人の私と、専門で働いているプロの実力差は歴然としており、いつも周囲に迷惑を掛けていたと思います。どんな仕事でも、このような人間関係の難しさ、技術・技能力・経験の差、そしてお金を頂く事のワクワク感と、その金額の少なさへの落胆。このようにいろんな思いをしながら、見知らぬ職場で汗をかいてきました。しかし、学生の悲しさ。夏休みの連休等が終われば、バイトを辞め、本学(工学部)に専念する事になります。

 そこで、身体で学んだ事は、いかにバイトをスムーズにこなすかのコツです。まずは、仕事を覚える為、学ぶ・まねる事でした。その為、他人から教えてもらう為には、何が大切か?? それは結局自分には分からない。だから教えて欲しいという素朴な素直さです。このことが、現在に至るまでの思いです。まずは、自分の考えは下の方に押し殺し、他人の言わんとする事を正確に聞き理解する事。これが原点であり、どの技術分野でも共通する大切な事と感じます。

 また工業化プロセスでは、自然科学とは違った、人作業という途方もなく難しく、やっかいな課題に直面します。そこには、人は何故・どのように働くのかという哲学的な課題に直面し、そのプロセス設計の優劣によって、成果が大きく変化します。人をいかにして客観的に見る事ができ、その能力をどうやって最大限に引き出し、かつ活性させるか。これは全産業のテーマでしょう。この事を考えると、より末端となる工業プロセス側の技術には、単なる工業技術のみでなく、人間を知り、それを活かすという、より複雑な課題に立ち向かう事が必用となります。完全無人化ラインを設計するプロセス技術者も、結局は人に頼らざるを得ない為、この大きな課題に直面し困惑します。作業、オペレートとはどうあるべきなのか??この優劣で、その製品のQCDが決まります。反復繰り返し作業、標準作業、一個送り作業など、言葉は色々ありますが、結局は無機質な同じ作業を1日に、千回も繰り返す。あるいは、まったく標準化できず、ひたすら目で監視する作業・・・・どちらが正解とは言えませんが、どちらが人に向いているのか??というと今でも私には正解は分かりません。アルミ産業で言えば、どちらかというとアルミ加工・組立型が前者。アルミの材料(精錬、圧延、押出等)が後者のイメージがします。本来双方とも無人化したいのですが、現在のプロセス技術では不可能です。その際、作業者に何をさせるのか?機械には別の何をさせるのか、という事は非常に大切です。ほんの小さな事でも作業者への気配り設計で、その結果は大きく違います。これはいかに人間の本質を真摯に受け止め、それに合った作業設計、プロセス設計をする事です。この事はまさに技術と感じます。これを日本では、「生産技術」と言います。この事が製品その物の仕様を決める「製品技術」と双璧を成す、大切な技術です。この製品技術と生産技術の双方により物作り企業の競争力が決定していきます。そして双方に共通することは、前に記載した、教わる事、教える事の大切さ、人間関係、それが技術伝承という事と感じています。優れた会社は、これを伝統という形で、見えない形ですが、大切に継承しています。

 私自身は、どちらかというと生産技術の分野が担当です。生産ライン・工場を作ってきました。その出来の良し悪しを見れば、反省する事の多いのも事実です。今は若い技術者をどう指導するか?100人居れば、100のやり方が必用です。しかし、基本は、現場・現物・現実を良く見る事。そして、作業者に真に優しいラインとする事。この事を、経験させながら成長させる事。これが、最終コーナーを廻った私の役割と認識しています。

 最後に一言。私の居る昭和電工は、日本で最初にアルミニウムを精錬した会社です。しかし昨年で、日本国内のアルミ精錬事業は全て終了しました。これは、日本の電気料金の高さによるもで、他国と精錬での競争できません。しからば、我々日本のアルミ産業は、どこに向いていくべきなのか?? どのアルミ分野で戦うのか?? 国内の土俵は既に縮小し、海外にしか活路は無いのか?? 今一度アルミの新たな価値を求めて、この大きな課題にチャレンジしていきます。

 

 

 
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