一般社団法人 軽金属学会

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エッセイ

国際交流から生まれた
新しい価値観

平成26年3月1日掲載

 

久保田 正広

日本大学生産工学部機械工
学科教授

 

 2月末が近づくと毎年のように想うことがあります!今から約20年前、マスターコース修了後ドクターコース進学のためにメルボルンへ向かったときのことを!

 メルボルンに住み始めた頃、アングロサクソン系オーストラリア人の生活を学びたくて約6ヶ月間ホームステイをした。コンピュータ販売会社を経営する30代のアドリアン、看護師のジェニファー、そしてその子供達5歳のジュリアンと2歳のキーロン(図1)。英語を学びながらドクターコース進学の準備をしていた頃である。多民族国家として知られているオーストラリアでホームステイをするときには、〇〇系オーストラリア人の家にお世話になる!この〇〇が重要である。インド系、ベトナム系といったアジア系からポーランド系、ハンガリー系といった旧東欧系、ドイツ系、フランス系といった西側先進国系まで多彩だ。私は英国をルーツに持つ白人、アングロサクソン系の家族を意図的に選び、オーストラリアでの家庭教育や若い家族からオーストラリアンライフを学ぼうとした。

 ホームステイでは、ほとんどの時間を家族と行動を共にした。夕食後の団欒、土曜日は教会へ一緒に行き、日曜日は夫婦の実家へランチ。兄弟姉妹が集合し、一週間の出来事を話し、孫達との再会を楽しみにしている祖父母との出会い。私が加わったことで日本に関する質問が多くなり、楽しい一時を過ごした。多民族国家オーストラリアでは、外国人を外国人として接しない文化があるため、会話のスピードを落とさず、スラングまじりの英語が苦しくもあり、ありがたいとも感じた。時間があればジュリアンとキーロンと遊んだ。あどけなかった彼らは既に成人し、立派なオーストラリア人として活躍している。次は私が彼らの子供達を日本でホストとして受け入れる番だと考えており、今からその日が来るのを楽しみにしている。

 図1 キーロン(2歳)とジュリアン(5歳)

 ドクターコースが始まった頃、ジュリアンとキーロンに別れを告げ、シェアハウスを経験した。ヨガを教えているアングロサクソン系オーストラリア人、クリス(図2)。チベットに6年住み、ダライラマとも親交がある女性。彼女はニューヨークでマクロビオティックを学び、実践しているベジタリアン。牛乳は一切口にせず、植物性の豆乳を飲む。摂取する穀物から瞬時にカロリーを計算する彼女は、ショッピング中の細かな計算には無頓着だった。彼女にはサンスクリット語を教えて頂いた。東洋と西洋の接点には一体何があるのだろう?彼女は毎晩の瞑想後、静かに私に問いかけた。市川の禅寺にも数年住んだことがある彼女がなぜ全く違う文化を受け入れる生活をしているのか、その理由をとうとう聞き出せなかった。

 ドクターコースの研究が軌道に乗りはじめた頃、研究の発想を飛躍させ、新しい着想、つまり自分の哲学を切り開こうとシェアハウスを変えた。今度はマレーシアンチャイニーズ系オーストラリア人、スーウェイ。彼女の両親はマレーシア在住の中国人で、彼女はクアラルンプール生まれ。高校生の時にメルボルンへ永住し、私とシェアした頃はモナッシュ大学メディカルスクールの6年生だった。彼女はチャイニーズレストランでオーダーを広東語でするが、漢字はほとんど理解できず、英語はネイティブに引けをとらない。食文化は中国料理だが、デザートは完全に西洋化している。夜遅くまで論文執筆をしていた頃、彼女が勤務していた病院から緊急の電話が時々あり、ボディーガード兼ドライバーとして深夜の病院へ車を走らせ、別世界を垣間見た。バックグランドが違う看護スタッフにテキパキと指示を出している。知識と英語だけを武器に異文化の環境で活躍している彼女のたくましさを感じた。

  図2 筆者とクリスさん

 アクションを起こさなければ、良い結果も悪い結果も生まれない!そして、これらの結果が無ければ進歩も発展も生まれないし、後退すら生まれない。臆せず前進あるのみ!これはオーストラリアで私が学んだ数ある中の1つ。オーストラリアの国のエンブレムをご覧になったことがありますか? カンガルーとエミューがお互いに向き合っている。その意味って? この動物達は後退ができないのです。つまり、若い国、オーストラリアは絶えずチャレンジすることが国のスピリッツとなっています。学生諸君はこれまで色々な事にチャレンジしてきていると思いますが、海外へチャレンジしてみては如何ですか? 様々なバックグランドの人々と交流することは、大変なエネルギーが必要です。でも、そのエネルギーを自分の知識と経験に変えられた時、海外への挑戦はきっと学生諸君に大きな自信をもたらします。海外旅行も含め、自分の足で海外へのステップを踏み出してみませんか? 成功も失敗もすべては行動から生まれる!を合言葉に。

 
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