一般社団法人 軽金属学会

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エッセイ

IMPACT

平成21年7月23日掲載

山田 浩之

大阪大学 大学院
基礎工学研究科
機能創成専攻
小林研究室
博士後期課程3年

大宮 聡太

博士前期課程1年

 
 ミョウバンは明礬とも書かれ、古くからいろいろな用途に使われてきたのはよく知られています。ウィキペディア(Wikipedia)で調べると、「染色剤や防水剤、消火剤、皮なめし剤、沈殿剤などの用途があり、古代ローマ時代から使われてきた。上質の井戸がない場合、質の悪い水にミョウバンを入れて不純物を沈殿させて飲用に使うこともあった。また、腋の制汗・防臭剤としても使用されていた。天然のミョウバンは白礬(はくばん)とも呼ばれ、その収斂作用、殺菌作用から、洗眼、含嗽に用いられることがあった。甘露煮などを作る際に、細胞膜と結合して不溶化することで煮崩れを防ぎ、またナスの漬物では色素であるアントシアニンの色を安定化して、紫色を保つ働きがある。ウニ(雲丹)の加工時の型崩れ防止・保存のための添加物としても使用される」と書かれています。

 ミョウバンは、通常カリウムミョウバンが一般的で、硫酸カリウムアルミニウムAlK(SO4)2・12h1Oの化学式からもわかるようにアルミニウムを含んでいます。スーパーなどに行くと無水化した焼きミョウバンが食品添加物として売られています。日本でもボーキサイトが手に入りにくい時代には、ミョウバンから酸化アルミニウムを取り出しアルミニウムを得たこともありましたが、すぐに品位のよいボーキサイトに取って代わられました(「アルミニウム外史」、清水 啓著、カロス出版)。

 わが家では、ミョウバンをお好み焼きに添加しています。一キロの小麦粉に大さじ山盛り一杯を(他にも重曹を同量、味の素等の調味料を少々)入れますと、ぱりっとした食感が得られ、焼き色も良くなるそうです。家内の母からの直伝で、天ぷらに使っても効果的です。このミョウバン、重曹、調味料をセットして「1キロの小麦粉に混ぜてみてください」と言ってご近所に差し上げたところ、「魔法の粉!」と驚かれたそうです。

 娘は現在日本画の卵かひよこ(ちなみに、日本画では60才でも若手だと言われているそうです)で、絵を勉強していますが、ここでもミョウバンを使っています。生ミョウバンと膠(にかわ)を混ぜて、「どうさ」というものを作り、墨や絵の具などがにじむのを防ぐために紙に塗ります。当て字らしいのですが、「礬水」とも書かれます。お湯に膠を混ぜ、その後にすりつぶしたミョウバンを入れて冷えたところで、和紙の表裏に刷毛で塗ります。これを礬水引き(どうさびき)といいますが、結構大変な作業のようです。上書きするときにも用いています。

 先日、名古屋から「軍艦島クルーズと雲仙、阿蘇、別府めぐり」のツアーに参加しました。軍艦島は長崎港沖合にある端島炭鉱の通称で、既に閉鎖されていますが、最近観光用に一部を公開しました。7月上旬で梅雨が明けていず、波が高くて上陸できませんでしたが、船で島の一周はできました。コンクリートで岸壁を固めた小さな島で、まさに要塞で外観は軍艦です。ここに家族を含め5000人もの人々が生活をしていたとのことです。炭鉱の内部は見学できないようです。
 その後も天候に恵まれず、42年前、高校の修学旅行で行ったことのある阿蘇の草千里は一面霧が掛かっていて、あの雄大な草原の景色は全く見えなかったのが残念でした。しかしツアーが敢行できただけでもよかったと思っています。その後、7月中・下旬、九州北部は梅雨前線の影響で記録的な大雨洪水となり土砂崩れなど大変な災害を被り、観光どころではなかったかと思います。

 さて、別府では鉄輪(かんなわ)温泉に宿泊しましたが、この近くに有名な明礬温泉があり、江戸時代から続く「湯の花」作りを見学できることがこのツアーに参加した動機の一つでもあります。湯の花を作る「湯の花小屋」は、噴気を通した小屋床のうえに、わらや茅で屋根を葺いたものです。内部で噴気と青粘土を巧みに利用して、湯の花の結晶(主成分はハロトリカイトという鉱物です。化学的には鉄とアルミニウムの硫酸塩です。「湯の花」は粘土層の上に霜柱のような立派な結晶として成長します。その成長速度は1ヶ月で数cm程度です)を作り出しています。粉にした湯の花は商品として売られています(詳細はhttp://www.yuno-hana.jp/index_main.htmlを参照)。売店には大きな結晶もありましたので、買えるかどうか聞いたところ断られました。試しに湯の花のジェルを購入しましたが、保湿性があり肌荒れやアトピー性などの皮膚炎には効果的かと思います。これも今後我が家の必需品になるかもしれません。
 湯の花はミョウバンの原料となりますが、江戸時代、どのように大きな結晶を作っていたかは秘伝にされていたため、現在その記録は残されていないようです。これを解明しようとしたのが別府大学の教授である恒松栖氏です(http://spanews.exblog.jp/4970307/)。今年2月のテレビ朝日「素敵な宇宙船地球号」(http://www.tv-asahi.co.jp/earth/)でも放映されていましたからご存知の方もおられると思います。彼はミョウバン職人の末裔だそうですが、その幻となった秘伝を復活させようと3年間もの間自宅でミョウバンの結晶製造を試して成果を得ることができました。

 彼は秘伝のヒントを古文書に求めた結果、貝原益軒著「豊国紀行」という古文書の絵の中に「灰汁」という文字を発見します。また、「鶴見七湯迺記」(大分県立歴史博物館所蔵)の挿絵の中に、黒っぽいものを燃やす様子が描かれていることにも注目し、何かを燃やして灰汁(あく)を作るのだろうと推測しました。ではいったい何を燃やすのか、……その地域特有に大量に栽培されていたとみなされる植物を調べると、「ハイノキ」という植物が浮かび上がりました。「ハイノキ」はその名の通り、燃やしても炭にならず、全て灰になってしまいます。実はこの植物はアルミニウム成分を大量に含んでいます。これを燃やした灰を水に溶かして濾した灰汁に湯ノ花を溶かし、それを煮詰めた液に糸を垂らして浸し、4日間放置してみると、数ミリの結晶が糸にびっしりとついていました。彼はこれぞ江戸時代に行われていた秘伝であろうと推測しています。

 「魔法の粉!」ミョウバンは古代から知られていたにもかかわらず、その製法はあまり明らかでないようです。プリニウス、アグリコラ、ベックマン、フォーブスなどの文献をたよりに、そのルーツを探る旅に出かける夢を描いています。
 
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