エッセイ
宇宙ステーション「きぼう」を利用した軽金属材料実験にチャレンジしよう!
平成21年3月3日掲載
茂木 徹一
千葉工業大学
教授
宇宙ステーション日本の実験室 「きぼう」のシンボルマークと筆者
いまでは前世紀になりますが、1984年レーガン当時の米大統領が、アメリカ大陸発見500年を記念して、1992年を目標に国際協力のもとで国際宇宙ステーションを作る計画を発表し、日本も参加を表明致しました。あれからおよそ4半世紀、紆余曲折がありましたが、日本の実験棟「きぼう」も打ち上げられて、いま地球上400kmの軌道を周回しています。
私は、1992年、毛利衛宇宙飛行士が搭乗したスペースシャトルエンデバーで、Al-Cu共晶合金の微小重力環境での凝固実験を行い、結果は熱対流のない条件下では、初晶は鋳型壁面から連続的に成長することや共晶は初晶先行相に関係すること、気泡は移動できずにそのまま試料内にとどまること等々、地上とはかなり異なった結果を得ることができました。それをきっかけに、その後も、ロケット実験や航空機実験、落下カプセルでの実験を行い、微小重力下での包晶系や偏晶系合金の凝固メカニズムを解明してきました。またそれを契機に、宇宙ステーションで使用する各種電気炉の開発にも携わりました。さらに、宇宙ステーションにおいては、長時間の微小重力実験が可能なため、Al-Pb過偏晶合金を溶解凝固させて、X線透過によりPb相がどのように生成するのか、分離がどのようにして起こるのか、などをその場観察することで明らかにすることを提案し、当時は1次選考には残りましたが、残念ながらX線の使用は、宇宙飛行士に影響があることや搭載する実験装置の関係から、実現しないままになっています。
地上とは異なって、材料実験を行う上での宇宙空間の大きな特徴は、熱対流が発生しないので、物質移動が拡散のみで起こること、沈降や浮上が起こらないので、地上では密度差により第2相の分離が起こる合金や複合材料でも均質な組織になること、無容器溶解ができるので、容器からの不純物の混入がないために、高純度材料ができることや凝固の基本である均質核生成や過冷の問題が議論できること、静圧がかからないので、自重による結晶のひずみがないので、原子配列の乱れが少なく、欠陥の発生が少ないことなどがあげられております。これらの特徴をうまく利用すれば、材料科学や技術の未知の分野の解明にきっと役に立つことと思います。
昨今のニュースでは、日本の実験室「きぼう」での活動を行う新しい宇宙飛行士が2名誕生したと報じられております。いよいよいろいろな実験を行える環境が整ってきました。会員の皆様、「きぼう」には、ステーション実験室内はもちろん、それに付属した船外に暴露試装置も備わっています。この機会に宇宙環境の特徴を活かして、是非とも軽金属に関係する研究にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。