一般社団法人 軽金属学会

  • お問い合わせ
  • English

エッセイ

ポスター発表の内容について

平成19年9月6日掲載

染川 英俊

(独)物質・材料研究機構
新構造材料センター
軽量材料グループ

 

 卒業研究のテーマとしてマグネシウムという軽量な金属材料を触れることになり、それから早いもので10年近く経過しました。(諸先生方には、たった10年?と思われるかもしれませんが。)その当時マグネシウムに関して“海中にたくさん存在し、そのリボンが燃えると激しい光を放つ”程度の知識しかありませんでしたが、今では、周期律表を眺めつつ、「同じ軽量な金属材料であるアルミニウムとたったひとつだけ原子番号が異なるだけなのに、よくもまあこのような難解(成形性や耐食性が悪い、延性・靭性・疲労など様々な特性の低さ)な元素を神様は創ったな。」と感じるようになりました。とは申しましても、そのおかげで研究するテーマがあるので、感謝しなければいけませんが。

 さて、この度(第112回春期大会)は優秀ポスター発表賞という素晴らしい賞を頂戴し、非常に光栄に思っております。ここでは、掲載しましたポスターの内容について簡単に紹介したいと思います。冒頭でも記載しましたように、マグネシウムは非常に軽量な金属材料です:実用金属材料の中では最軽量。最近では、ノートパソコンや携帯電話などの電子機器の筐体の軽量化として使用され、さらには、自動車や鉄道車輌などの移動用部材としても使用が検討されています。その一方で、構造部材としての安全性や信頼性の評価基準のひとつである破壊靭性値は、他の材料と比較して非常に低い値を示します。そのため、大型部材に関して、現時点では使用に際しての検討段階で、実用化にはほとんど至っておりません。本発表では、如何にしてこの低い破壊靭性値を改善するかについて、材料の組織学的影響因子に注目し、発表しました。

 そもそもマグネシウムの破壊靭性値の低さは、その結晶構造:六方晶構造に起因しています。室温では、活動するすべり系が他の金属材料と比較して非常に乏しく、それを補うため、双晶と呼ばれる特異な変形が活動します。しかし、これらの変形は、一般的な結晶とは異なり、その界面に応力が集中した場合、非常に脆く破壊の起点になりやすい性質があります。そのため、変形双晶の発生を抑制することが、破壊靭性値改善の一つだと考えられます。そこでまず、マグネシウム母相の大きさ(結晶粒径)を微細にすることに注目しました。その結果、変形双晶発生を抑制することに成功し、破壊靭性値を改善するひとつの手段であることを明らかにしました。また、同じ結晶方位を持つ集合体(集合組織)を制御することも変形双晶の発生のしやすさに作用し、破壊靱性値に大きく影響を及ぼすことも確認しました。

 また、一般的な金属材料では、その母相に微細な粒子を均一に分散することは、機械的特性の向上につながることで知られています。(ただし、粗大で不均一な場合は、破壊の核になりやすいため逆効果。)本研究では、微細はもちろんのこと、さらに「球形」を示す粒子をマグネシウム母相に均一分散することが、破壊靭性値の改善により効果的であることも明らかにしました。そして、結晶粒径や集合組織・析出粒子の形態などがマグネシウム合金の破壊靭性値に影響を及ぼすとともに、これらの因子を制御することが、高靱性マグネシウム合金の創製につながることを実証しました。

 このように、所属しております新構造材料センター 軽量材料グループでは、ナノ・ミクロ・マイクロの階層的組織制御により、破壊靭性値のみならずその他の特性の改善も図り、従来にない素晴らしい特性を発揮するマグネシウム合金の創製に従事しております。また、グループ内では、マグネシウムのほかにアルミニウムなどの軽量金属材料の高性能化にも取り組んでおります。詳細な研究内容は、下記のHPを参考にしていただけますと幸いです。
URL: http://www.nims.go.jp/smc-5/indexj.html

 最後に、この様な執筆の機会を与えていただいた(社)軽金属学会関係者の方々、また、常日頃から筆者の至らぬ実験の補助ならびに助言を与えてくださる(独)物質・材料研究機構の皆様、ならびに理解のある家族に謝意を表します。

 
PAGE TOP