エッセイ
アルミニウム表面をヨウ素で飾る
平成15年11月5日掲載
高谷 松文
千葉工業大学・工学部
機械サイエンス学科
教授
ヨウ素(ヨード)の元素記号『I』で、ハロゲン元素に属すものの中で、ヨウ素は唯一の固体である。また、ヨウ素はヨードとも言い、正負両性の元素で、有機化合物と反応し、有機合成反応の中間体や触媒などにも利用されている。
このヨウ素を用いての最近のトピックスは、2000年にノーベル化学賞を受賞した白川博士の導電性ポリマーの開発で、〈プラスチックは電気を通さない〉という、従来の常識を覆す新たな領域開発である。この開発の中で、ヨウ素はプラスチックに電気伝導度を持たせる添加物として重要な役割を担っていることを明らかにし、世界的に注目された。
ヨウ素は、通常食物にも微量であるが含まれている。一部海草などからも摂取している。また、ヨウ素は体の代謝面で甲状腺ホルモンの主体をなし、発育上、人体に欠かせない元素である。ヨウ素が欠乏すると、幼児期の発育障害、特に姿勢の発達と骨育成に影響し、成長が阻害され、特に筋肉や情緒行動に障害を受けることもあるといわれている。
ヨウ素は人工的に作ることができない貴重な元素で、人類および動植物の生存に欠くことのできない元素である。わが国のように海洋国では、海草や魚介類から容易に摂取できるが、簡単に摂取できない国や地域も多く、このようなところでは、ヨウ素を食卓塩などに加えて補っている。わが千葉県でのヨウ素は、天然ガスのかん水から精製している。このかん水は、上総層郡と呼ばれる第3紀から第4紀の地層中の、特に100~200万年前の砂と泥の互層のうち、砂層中のメタンを主成分とする天然ガス中に溶存している。このかん水と天然ガスは、地下に沈積した海草などが長い年月を経て、分解・濃縮されたと考えられている。ガスとともに汲み上げたかん水は、海水に似ているが海水に比べマグネシウムが少なく、ヨウ素がヨウ化物として海水の数百倍から数千倍含まれていることが特徴である。
世界のヨウ素(ヨード)生産量は、年間約18,000トンで、日本とチリが主な産出国である。日本の生産量は世界の40%を占め、チリについで第2位の産出国である。そのうち千葉県では全国の80%にあたる6,000トンが生産されている。
このようにヨウ素は、わが国が世界に誇れる貴重な資源である。
筆者は長年にわたり表面処理・改質にかかわる研究に従事してきた。近年では環境低負荷材料質についてその新機能性を探求している。
世界の環境保全が叫ばれ、表面技術も他の産業と同様に環境保全、省エネルギー化がいっそう重要になってきた。
筆者らは上に述べたヨウ素について、わが国の世界に誇れる産物、環境保全さらに省エネルギー面に着目し、アルミニウム表面をヨウ素で飾った表面処理皮膜技術を開発した。本技術で得られた皮膜特徴の一端について紹介する。アルミニウムのヨウ素装飾法は、まず従来行われている多孔質陽極酸化処理(硫酸浴等)で皮膜を形成させ、その後ヨウ素化合物を溶解させた浴中で二次電解により孔に含浸させるものでいたって簡便である。このようにして得られた表面の色彩は黄色からセピア(ヨウ素色調)色を呈し、この色彩は二次電解条件を変化させることにより可能である。皮膜のトライボロジー制を摩擦係数から評価したところ未処理の大気中での摩擦係数の値が0.8に比較してヨウ素含浸皮膜のそれは、0.08と低く、従来亭摩擦材として実用されている二流化モリブデンや黒鉛と同程度の値が得られている。
ヨウ素がん浸皮膜の耐食性および耐候性は、5%塩水を用いた塩水噴霧試験での連続噴霧、800時間後で評価した結果、表面の発錆や脱色が認められていない。さらにヨウ素含浸皮膜は大腸菌やブドウ球菌に対する抗菌性、防かび性に優れている結果が得られている。
以上、ヨウ素を利用したアルミニウム陽極酸化皮膜の特徴の一端を紹介させていただきました。