エッセイ
宇宙と時間
平成15年10月1日掲載
浅見 重則
古河スカイ株式会社
取締役
技術研究所長
今年の夏は、夜、南の空を見上げると一段と明るくオレンジ色に輝く火星が間近に見られた。約6万年振りの地球大接近とか。これを見ていると、子供の頃に見上げた天空一面を覆う星の数々や天の川が脳裏に浮かんでくる。最近、東京近辺ではほとんど見ることのできなくなっただけに、なおさら郷愁にかられる。
太陽系が属する銀河系(天の川銀河)は、上から見ると台風の雲のような渦巻き状で、側面から見ると球(バルジ)を中心にその赤道部から長く薄いつば(ハロー)が出ている形をしている。ハローの直径が10万光年、バルジの厚さが1。5万光年で、太陽系はその中心から2。8万光年のところに位置している。地球からはハローとバルジの星の密集が天の川となって見えることになる。天の川銀河には少なくとも2000億個の恒星が存在するという。
天の川銀河の近くには16万光年の距離にマゼラン星雲、220万光年の距離に天の川銀河とほぼ同じ大きさのアンドロメダ星雲があり、宇宙全体では150億光年の広がりの中にこのような銀河が何と1250億個もあるという。最近はハッブル宇宙望遠鏡のお陰で、さまざまな星や銀河の美しい姿をインターネットで簡単に見ることができる。
宇宙の誕生の瞬間は、約150億年前に小さな一点が大爆発した「ビッグバン」だったと言われ、ここに時間と空間が誕生したとされている。ビッグバン100分の1秒後の宇宙は温度1000億度の超高温・超高密度で、大量の光子(フォトン)、ニュートリノ及び電子の中に少数の陽子や中性子が混沌としている状態であり、3分46秒後には温度が9億度まで下がり、ヘリウムや水素の原子核の結合ができたとされる(これら元素の構成比は3:7で現在の宇宙でも変わらない)。ビッグバンの膨張につれてヘリウムと水素が巨大なガスのかたまりを形成し、30万年から10億年後にかけて原始銀河が形成されてきた。なお最近、NASAから「宇宙の年齢は137億年で、誕生後2億年後には星が輝き始めた」との報告がなされている。
地球は今から46億年前に誕生し、その1億年後には大気と水が生まれた。35億年前にはバクテリアが出現し、さまざまな生物の出現と進化を経て、2億1千年前には恐竜が出現(6500万年前に絶滅)して、5000万年前に大型の哺乳類が現れた。そして、700万年前にアフリカで人類とチンパンジーが分かれ、200万年前に原人が出現し、20万年前に我々ホモサピエンスが生まれた。その後、人類は進化を遂げて相当に高度な文明と科学を持つ現在に至った。
さて、この広い宇宙の中で、現在の人類のように高度な文明を持つ生命が住む星が存在するのであろうか。よく話題にされるところである。宇宙の銀河1250億個それぞれが天の川銀河のように1000億オーダーの星を持つとすれば、宇宙全体では10の22乗オーダーの星があることになる。これだけあれば、地球と同じかそれ以上の文明を持つ生物が他に存在すると考えるのが素直のようである。しかし、星が誕生してからまず生物に必要な大気と水が出現し、生物が生まれ、さらに人間のような高等生物が現れるためには、幾つもの偶然が重ならなければならない。仮に、ある一つの出現または進化がゆらぎの中から10分の1の確立で生じるとすると、地球誕生からホモサピエンスが現れ現在の人類に進化するまでには、その分岐のチャンスが22回程度は必要でなかったか。10の22乗分の1の確率すべてを乗り越え進化を遂げることができたのは、地球に住む人類だけではないか。さて、皆さんはどう思うのであろうか。私は、後者の地球上の人類だけのように思うのだが(夢の無い話になるが)。
時間の経過を実感しやすくするために、宇宙の年齢(137億年とする)を1年に置き換えてみる(以後“1年時間”と呼ぶことにする)と、大型哺乳類が出現した5000万年前は32時間前、原人が出現した200万年前は77分前、ホモサピエンスが現れた20万年前は7分40秒前となる。人類は今から5700年前になって銅(青銅)を、3500年前になって鉄を本格的に使いだしたが、“1年時間”ではそれぞれ13秒前および8秒前である。
ホールとエルーによる電解精錬法とバイヤーによる湿式アルカリ・アルミナ製造法によってアルミニウムが本格的に使用されるようになって115年。これは“1年時間”では、僅か0。26秒である。人間の一生は長くて100年、0。23秒である。
この100年余り、人間は科学を発達させ暮らしは楽になったが、その副作用として人口の急激な増加による食料危機の恐れと地球環境の悪化をもたらしつつある。アルミニウムは丁度この期間に生まれ利用されてきたのだが、アルミニウムの持つ軽量、省エネルギー対応性、高耐食、高度リサイクル性等々、軽量・高機能を活かして地球環境の保全に有効利用されていくであろうし、そうしなければならない。10の22乗分の1の確率を乗り越え発展した人類の一員として、そしてアルミニウム産業に携わる一員として、今後アルミニウムが0。26秒から数秒・数分・数時間へと長く人類の発展に貢献できるように、僅か0。2秒の命ではあるが、少しでも寄与したいと思っている。