一般社団法人 軽金属学会

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エッセイ

色の魔術師・アルミニウム

平成15年8月1日掲載

大村 泰三

三菱アルミニウム株式会社
技術顧問

 

 「色」という漢字の成り立ちは「跪いている人と、その上に乗りかかっている人とで、男女間の性交を表す」(角川最新 漢和辞典)とありますように「色」にはその道の事を表す場合もあれば、仏教の般若心経にある「色即是空」のように崇高に「宇宙に存在する形有るもの、全ての物質を表す」こともありますが、今回は色彩としての「色」、特に「アルミニウムの色」について書いてみました。

 金属としてのアルミニウムは、何か他の金属と比べると「安っぽい」と感じられませんか。特に銅や金などに比べるとその差は歴然とします。
元々金属の色は自然光を吸収し残りが反射されたもので、量子力学の教科書で勉強したように金属結合した原子の1次量子遷移の吸収に関係しています。アルミニウムは可視光(360nmから830nm)をほとんど反射するため白っぽくなりますが、銅は青や黄色の短波長の光を吸収し赤っぽい長波長光を反射します。金は青系の短波長光を吸収するので反射された色はまさに黄金色となります。

 じゃあ、アルミニウムが「色」について駄目かといえば、逆に合金化や表面処理により最も多彩な色を演出する「色の魔術師」なのです。色白なほど化粧が映えるのと同様に、多分アルミニウム本来の「色白」がそれを可能にしているのではないでしょうか。 

 アルミニウムに他の元素を固溶させると金属結合状態が変わり、光の吸収スペクトルが変わります。これによりアルミニウム合金の色が変わります。大分前になりますが、金色合金についての特許を調べたことが有りますが多くがアルミニウム合金だったと記憶しています。現在では表面処理技術が進歩して、バルク全体を変える合金化よりも必要な表面だけを変える、耐磨耗性などの特性と組み合わせた表面処理により多彩な色を作り出しています。

 アルミニウムの色といえば、第一にサッシが浮かびます。昔は白っぽい(安っぽい)サッシがほとんどでしたが、最近では、ブラウン、ゴールド、ブラックなど多彩になってきました。 また携帯電話のような携帯機器の高級品は、アルミニウムの加工品を表面処理したものがほとんどで実にカラフルです。因みに安物のプラスチック製と見分けるのに一番簡便な方法は、手に持ってみることです。プラスチック製は温かに感じますが アルミニウム製は熱伝導性が高いのでヒンヤリ感じます。
 
アルミニウムの着色に関係した表面処理方法は大別すると
① 陽極酸化皮膜利用
② 塗料
③ ①と②の組み合わせ
になります。(詳しくは(社)日本アルミニウム連盟編 「アルミ圧延品ポケットブック」1998 p・30、31 を参照下さい)

塗料はカラーアルミに代表されるように生産量は多いのですが、特にアルミニウムの特徴ではないので、ここでは①の陽極酸化利用方法をおさらいしてみま
す。
陽極酸化といえばアルマイトという和製英語で言われるように日本人にはとてもポピュラーな言葉ですが 硫酸液中で電解しアルミニウムの表面に多孔質の酸化膜を形成します。
(これにテフロンを含浸させたフライパンはよく知られています。)
純度の高いこの酸化膜はそのままではシルバー・アルマイトですが 合金や電解条件によるとゴールドやブロンズなどの色になります。これは合金発色(自然発色)とよばれています。 
 
 さて、アルミニウムを「色の魔術師」と呼ぶのは、陽極酸化膜の細孔に仕掛けをして多彩な色を演出出来ることによります。まずは、二次電解法です。これはこの多孔質膜を生成しさらに金属塩を含む電解浴中で2次的に電解して孔の最深部に金属や金属酸化物を析出させる方法で、ゴールド、ブロンズ、ブラックなど濃淡を任意にコントロールできます。 

さらに極め付けは、この細孔に染料・顔料を含浸させる方法です。ほとんどどんな色でも金属光沢を持たせることが出来ます。携帯電話等のアルミニウム製携帯製品のほとんどがこの方法によります。黄色染料を含浸すると見事な黄金色になります。干渉縞による虹色も出せます。こうして優れた成型性とともに色の多様性によって、アルミニウムは製品のデザイナーに広く受け入れられています。私は成形性と着色性を合わせて「ファッション性」と呼んでいますが、アルミニウムは「ファッション性」の優れた高級素材なのです。 写真にはアルミニウム製のデジタル・カメラ、MD、 携帯CT、 携帯電話などのケースが写っています。 
 
 ここまでの話では、いとも簡単にどんな色でもOKということですが、工業的には 
「色」だけにとてもデリケートな技術が要求されています。「色」と言うより「風合い」
などという人間の感性で測るようなものだから、製品のバラツキには神経を使いますし多くのノウ・ハウがつまっています。それだけに、世界をリード出来る日本的な技術ではないでしょうか。 実際最近の実績では 携帯電子機器のアルミニウム・ケースの世界シアーを日本が大半握っています。

 
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